【完全保存版】プロが教える人物レタッチの基礎と実践方法
撮影会社のラズスタジオです。
写真は、ただカメラで撮影するだけでは完成しません。
より魅力的な写真にするために欠かせないのが、レタッチです。
このブログ記事では、プロのレタッチ技術を、基礎から応用まで詳しく解説します。長年の経験から得られた知見をもとに、あなたの作品をさらに魅力的に仕上げるための実践的な方法を伝授します。
目次
1.レタッチとは
レタッチは、単に写真を加工するだけでなく、写真の持つ魅力を引き出し、伝えたいことをより効果的に表現するためのものです。
- 不要物の除去: 写真の邪魔になるものを取り除き、メインの被写体を際立たせます。
- 肌の美肌加工: より美しく自然な肌に仕上げ、人物写真の印象をアップさせます。
- 明るさ・色味の調整: 写真の雰囲気を変え、イメージした印象に仕上げます。
これらの技術を駆使することで、理想の写真に近づけることができます。
自然で高品質な仕上がりを求める声は依然として高まっています。
プロのレタッチは、写真の用途や目的、そして最新のトレンドをしっかりと考慮し、「加工感」を感じさせない洗練された仕上がりを実現します。
本記事では、プロが行っているレタッチの基礎知識と、具体的な実践方法を分かりやすく解説します。
2.レタッチ作業のファーストステップ
2-1.撮影前の段階にイメージを共有しゴールを決める
撮影前の段階で、写真のイメージを構成し、仕上がりのゴールを決めて撮影を行いましょう。
レタッチがうまくいかない主な原因は「ゴールを決めていない」ことが挙げられます。
ゴールを決めることで、
- 撮影前に準備しておくべきこと
- 撮影時に仕上げるポイント
- レタッチで仕上げる部分
といった、全体の作業工程を見通すことができます。
写真のイメージを決めて、撮影環境や、ライティング環境を整えることで、レタッチのプロセスも明確になり、仕上がりのクオリティアップに繋がります。
2-2.基本的なレタッチ手順・レイヤーの使い方
大きく3つの手順で分類すると、
- 不要物の除去、細部の修正
- 変形・加工
- 色味の調整・変更
この順番で進めていくのが基本となります。
この手順に沿って行うことで、同じ作業の繰り返しや、やり直しを最小限に抑えることができます。
・「レイヤー」の使い方・組み方
レタッチをする際は必ずレイヤー使用していきます。
レタッチでは、「追加や修正作業」「元の状態に戻したい」といった状況が頻繁に起こります。
前述したレタッチ手順にならい、レイヤーを適切に組んでいくことで、作業後の修正が必要になった場合でにもすぐに対応することができます。
写真レタッチにおけるレイヤーの重ね方
例えば、先に「色味の調整・変更」を行い、「不要物の除去、細部の修正」を行った場合、
再度、「色味の調整・変更」の調整を行うと、「不要物の除去、細部の修正」で修正した部分が浮き上がり、やり直しが必要となります。
<参考動画>
レイヤーの重ね方を適切に行うことで、作業手順が明確化され、同じ作業の繰り返し、やり直しによる手間暇を少なくし、スムーズにレタッチ作業を進めることができます。
補足:「変形・加工」と「色味の調整・変更」について
今回の実践方法で紹介する方法はこの順番を基礎として紹介しますが、作業内容や状況に応じて、順番を入れ替える場合があります。例えば、撮影した写真の時点で大きな「変形・加工」が必要のない場合は、「色味の調整・変更」を行い、最終調整で「変形・加工」を行います。状況に応じて作業を行います。
2-3.データ形式
レタッチを行う際にはデータ形式の確認も必要です。下記に必要な項目を記載します。
・ピクセル数(px)
撮影した写真元データのピクセル数のまま作業に入ります。
使用用途に応じた、ピクセル数の変更はレタッチ完了後に行います。
・画像解像度(dpi)
解像度は350dpiにて作業を進めます。印刷の際は、解像度が低いと画像が粗くなるためです。
一方、Web掲載用には72dpiが最適とされています。しかし、72dpiで編集したデータを印刷用の350dpiへリサイズを行うと、画像編集ソフトで処理を行っても、含まれている情報が不足しているため、高画質化は難しいケースが多いです。
そのため、レタッチを行う際は、350dpiで作業を行います。これにより、急な印刷依頼にも柔軟に対応できます。
・カラープロファイル設定(カラーモード)
レタッチ作業時のカラープロファイルはAdobeRGBを使用します。
Adobe RGB色空間は、sRGB色空間よりも広い色域を持つ色空間です。特にグリーンとブルーの色域が広いことが特徴です。
もし、元のデータがsRGBだったとしても、レタッチ作業を行う際はAdobeRGBに変換を行ってから編集を行うことで、広い色域での作業を進めることができます。
一方で、Webで広く利用されているディスプレイやブラウザは、sRGBを前提として設計されています。AdobeRGBのままwebに掲載すると色がくすんで見えたり、彩度が低くなる傾向があるため、Web掲載時にはsRGBへの変換必要です。
作業はAdobeRGBで行い、使用用途によってsRGBへの変換を最後に行います。
補足:使用しているモニターがsRGBにしか対応していない場合
sRGBで編集します。Adobe RGBで編集を行うと表現された色が正確に表示されず、色がずれて見えることがあるためです。
3.実践方法「人物の肌レタッチ」
実際のレタッチの工程を人物の肌レタッチを例に、実際の作業画像とともに紹介していきます。
基本的な人物・肌レタッチの流れ
- レタッチ作業前の準備
- 不要物除去・修正
- 肌のムラを整える
- 変形作業(フェイスラインや体型・パーツの移動や修正など)
- 全体のトーン調整・仕上げ
ブログ解説用途、作業効率の都合上、当ブログ内の作業は72dpiで作業しています。実際の作業では350dpiで作業を行います。
1.レタッチ作業前の準備
元データである「背景レイヤー」を複製します。(レイヤー名:確認用)
このデータは確認用データとして、編集中の確認データとしてレイヤー階層の上に配置、非表示にしておきます。
編集中に確認・比較する際に表示することで、編集前後の比較がわかりやすくなります。
調整レイヤーを使用して細部まで確認する
確認用レイヤーに調整用レイヤーを使用することで、元画像では見えなかった修正箇所を見つけることができるようになります。
この確認方法は様々な方法があるのですが、ここでは2通りの方法をご紹介します。
- 「階調の反転」を使用する
階調の反転を使用することで、元画像では確認しきれない、不要物や修正箇所、濃淡のムラを客観視することができます。
特に肌色は明るく淡い色なで見落としやすいものを反転することでほくろや、髪の毛の部分が白色で見え、目視しやすくなります。 - トーンカーブを使用する
明るさの異なる複数のトーンカーブを使用することで、元の画像では確認しきれない、不要物や修正箇所、濃淡のムラを確認することができます。例えば、暗くすることで細かな凹凸が浮き上がったり、明るくすることでシミやそばかすなどを浮き上がります。
- これらはすべて確認用の調整レイヤーなので普段の作業では非表示とし、確認の際に表示をし都度確認をします。
- どちらの方法が正解、というわけでは無く、作業に合った方法や求められる品質に合わせて使い分けます。
2.不要物除去・修正
最初の工程は、吹き出ものや、ほくろ等の不要物を除去・補正していきます。この工程では主に
- スポット修復ブラシ/パッチツール/削除ツール
- コピースタンプツール
を使用します。
「ぼかし」加工や塗りつぶし加工よりも、肌の質感をキープしながら自動修正によって効果的な修正が可能になります。
2-1.スポット修復ブラシ/パッチツール/削除ツールを使用する
対象物がはっきりしているほくろや吹き出ものなどには、この3つのツールを使用します。
- 背景レイヤーの上に新規透明レイヤーを作成。(レイヤー名:不要物除去)
- ツールからスポット修復ブラシ(もしくはパッチツール、削除ツール)を選択します。
- オプションでは、「コンテンツに応じる」を選択、「全レイヤーを対象」にチェックを入れます。
- スポット修復ブラシの場合、削除したい部分をクリックします。この作業を繰り返していきます。
補足:透明レイヤーで不要物を除去していく
不要物の除去は、元の写真データ上では行わず、透明レイヤーを作成して作業をします。こうしておくことで、元画像に手を加えずに、修復のやり直し・訂正がしやすい他、作業管理、部分的な色味の調整などの作業を効率化することができます。
2-1-1.それぞれの使い分け
- スポット修復ブラシ・・・ブラシで削除したい部分をクリック。周辺のデータに基づき自動で修正。
基本的にこのツールをメインに使用する。 - パッチツール・・・修正箇所をドラッグして囲み選択範囲を作成。近くの置き換えたいデータ上の場所にドラッグ&ドロップ。ドラッグ&ドロップ先のデータに基づき修正されるので、ブラシよりも広範囲のものや、近くの質感をベースに修正する際によく使用する。
- 削除ツール・・・ブラシで削除したい部分をクリック。AIがデータを分析し自動で修正するので、現在の段階では、精度が低い場合があるし、うまくいく場合もある。また、分析による画像処理時間が発生するので使い分けが必要。
2-1-2スポット修復ブラシ・パッチツール・削除ツールのコツ
- 目立つ部分だけを細かく行う
これらのツールを多用すると肌の質感を失ってしまうため、目立つ部分だけを行いましょう。
またブラシストロークで大雑把にしてしまうのもクオリティを下げてしまう要因となります。少し根気のいる作業ですが、細かく丁寧に行うことが綺麗に仕上げる近道です。
2-2.コピースタンプツールを使用する
スポット修復ブラシ・パッチツール・削除ツールで良い結果が得られなかった場合や、追加で加えたい補正などに使用します。
コピースタンプツールはコピーしたい部分を自分で選択し、選択した部分をコピー・修正することができます。
- ツールからコピースタンプツールを選択します。
- オプションは、サンプル:「現在のレイヤー以下」を選択。
- 修正したい箇所にコピーをしたい部分をAltキー(Macはoptionキー)を押しながらクリックします。
そのまま修正したい箇所をクリック&ドラッグすることでコピー修正ができます。
2-2-1.コピースタンプツールのコツ
- ブラシの硬さを調整する
コピーした際に境界線のコントラストが目立つときがあります。そんなときはブラシの硬さを調整します。硬さ0%にすると、境界線を無くすことができます。 - 画像データの濃淡(グラデーション)の流れを確認する
スタンプのソース(コピー元)とコピー先を設定する際は、周囲の濃淡を確認しすることが大切です。なぜなら、コピーした部分のライトの当たり方が違って違和感が感じられてしまう可能性があるからです。
2-3.スポット修復ブラシ/パッチツール/削除ツール、コピースタンプツールは下記作業にも応用ができます。
- 例1.)白目の血管を削除する(スポット修復ブラシ・コピースタンプツールの併用)
スポット修復ブラシだけで、白目の血管の修正がうまくいかなかった場合、併用することでうまくいくことがあります。
- 例2.)唇の補正(コピースタンプツールを使用)
修正・削除の作業ではなく、追加補正にも使用できる
3.肌のムラを整える
不要物の除去が完了したら、肌のムラ(シミ、毛穴のムラなど)を整えていきます。
トーンカーブと、レイヤーマスクツールを併用し、部分的に調整を行います。
トーンカーブ
明るさ・コントラスト・色合いを微調整することができます。
レイヤーマスクツール
使用するレイヤーの内容を画像データを削除せずに部分的に隠す(非表示)にする機能です。
設定したレイヤーに対して、グレースケールで調整をします。白はそのまま表示。黒は隠されて非表示。グレーは濃淡に応じて表示されます。
トーンカーブレイヤーにマスクツールを組み合わせることで、肌のように、質感を残しながら、絶妙なムラのある部分だけを自然に馴染ませることができるうえ、修正のしやすさ、やり直しのしやすさなど、作業効率が格段にアップします。
- カーブを持ち上げたトーンカーブ(明るく補正する)とカーブを下げたトーンカーブ(暗く補正する)の2つの調整レイヤーを作成します。
- レイヤー名の左の白いボックス部分がレイヤーマスクサムネールです。この部分をクリックし、黒で塗りつぶします。
2つのトーンカーブレイヤーは表示されていますが、マスクツールを黒く塗りつぶしたため、トーンカーブが反映されていない状態が表示されています。
- レイヤーマスクサムネールをクリックし、修正したい箇所を「描画色:白」に設定したブラシでスクロールすることで、トーンカーブを表示させ、部分的に修正します。
この作業を2つのトーンカーブそれぞれで作業を繰り返していきます。
白で塗ることで、レイヤーが表示される仕組み。レイヤーマスクサムネールにもすぐに反映され、おおよその反映場所をサムネールで確認することができる。
補正例)「レイヤー:トーンカーブ(明るく補正する)」では、鼻横の影を自然に馴染ませる補正を行い、「レイヤー:カーブ(暗く補正する)」では、眉毛や目元を濃く(暗く)補正を行った例。
・レイヤーマスクツールのコツ
- ブラシの「不透明度」と「流量」を調整して使用する
トーンカーブとマスクツールを併用する場合、ブラシツールの「不透明度」と「流量」を調整することで、絶妙なコントラストやムラの違いを調整しながら修正することができます。
肌のムラの修正では、凹凸や潤い、ライティングなどによって、明るさや修正度合が異なります。そのため、単一的な作業では思い通りの結果が出ない場合があります。
例えば、トーンカーブを明るく調整し、「不透明度:100%」「流量:100%」でマスクツールをストロークさせ一番暗く、目立つ部分を修正ができたとします。
その近くに、先ほど修正した部分よりは暗くないけれども、明るくしたい部分があった場合、同じブラシ設定でストロークさせると、明るくなりすぎてしまいます。初めに修正した部分よりも修正場所が暗くないためです。
そんなときは、「不透明度」を低くすることで、表示するトーンカーブの明るさを抑えることができます。
ただし、「不透明度」を低くしても、同じ部分をブラシでストロークすると、最終的には明るくなりすぎてしまったり、思い通りの結果にならない場合もあります。
その場合は、「流量」を低くすることで、表示させる範囲をまばらにすることができます。
このように、レタッチする対象物に合わせて、「不透明度」「流量」を変更しながらマスクツールを編集することで細やかな調整を行うことができます。
今回の肌レタッチのように、部分的な修正で元の質感を残すレタッチの場合、初めから流量を低く設定(目安:20%~70%前後)して作業することで周辺との境目に影響を及ぼすことなく修正することができます。
・[プラスアルファテクニック]肌を滑らかに仕上げる(パターンスタンプツール)
肌を滑らかにレタッチを施す、プラスアルファのテクニックをご紹介します。
- 「レイヤー:背景(元データ)」を選択した状態で 「ファイル>パターンとして定義」にてパターンを保存します。
- ツールから「パターンスタンプツール」を選択。オプションは「調整あり」「印象派効果」、パターンは保存したパターンを選択